PSAは前立腺がんの早期発見に有効なのか?
前立腺特異抗原(PSA)は前立腺がんになると、血中濃度が上がることが知られています
そのため、前立腺がんのスクリーニング検査として、自由診療の枠内で利用されています
自由診療としてのPSA
PSAは前立腺がんと分かった患者であれば、保険適用になります
健康な人が検診で利用する場合は保険が効きません
一方、乳がん・子宮頸がん・大腸がん検診は、健康な人でも国の補助が出ています
これは厚労省が定めた健康増進法に基づくがん検診に基づく取り決めです
それは、前立腺がん検診おけるPSAの推奨グレードIというのが理由です
がん検診ガイドライン・前立腺がん
- 前立腺特異抗原(PSA)検査は、前立腺がんの早期診断をする上で有用な検査です。しかし、死亡率減少効果の有無を判断する証拠が現状では不十分であるため、現在のところ対策型検診として実施することは勧められません。
- 任意型検診として実施する場合には、死亡率減少効果が未だ確定していないこと、利益の可能性と、過剰診断を含む不利益について適切に説明する必要があります。適切な説明に基づく受診については個人の判断に委ねます。
- 今後引き続き、死亡率減少効果に関する評価研究が必要である。特に欧米とは罹患率等が異なるわが国において、前立腺がん死亡をエンドポイントとした質の高い研究(個人の受診歴に基づく、無作為化比較対照試験、大規模コホート研究、症例対照研究など)の実施を勧めます。
推奨グレード
推奨 | 表現 | 対策型検診(住民検診型) | 任意型検診(人間ドック型) | 証拠のレベル |
A | 死亡率減少効果を示す十分な証拠があるので、実施することを強く勧める | 推奨する | 推奨する | 1++/1+ |
B | 死亡率減少効果を示す相応な証拠があるので、実施することを勧める | 推奨する | 推奨する | 2++/2+ |
C | 死亡率減少効果を示す証拠があるが、無視できない不利益があるため、対策型検診として実施することは勧められない。任意型検診として実施する場合には、安全性を確保し、不利益に関する説明を十分に行い、受診するかどうかを個人が判断できる場合に限り、実施することができる。 | 推奨しない | 条件付きで実施できる | 1++/1+/2++/2+ |
D | 死亡率減少効果がないことを示す証拠があるため、実施すべきではない | 推奨しない | 推奨しない | 1++/1+/2++/2+ |
I | 死亡率減少効果の有無を判断する証拠が不十分であるため、対策型検診として実施することは勧められない。任意型検診として実施する場合には、効果が不明であることと不利益について十分説明する必要がある。その説明に基づく、個人の判断による受診は妨げない。 | 推奨しない | 個人の判断に基づく受診は妨げない | 1-/2-/3/4 |
(国立がん研究センターから)
まだ、証拠として不十分ということでしょうか
PSAの診断マーカーとしての性能
東京医科歯科大学大学院から
- PSAは前立腺に特異的であるため、他のがんで上昇しない
- PSAは前立腺肥大症や前立腺炎のような良性疾患でも上昇し、加齢でも上昇する
- PSA値がグレーゾーンのときに前立腺生検によってがんが見つかる確率(陽性率)は約25〜30%
- 基準値(4.0ng/ml)未満でもがんが検出されることがある
切れ味が良いとは言えないのが特徴です
日本のガイドライン
この動きを受け、注目されるのは日本のガイドラインです
日本の状況は
「日本のガイドラインを変更するつもりはない」
- 日本泌尿器科学会のガイドライン…50歳以上の男性に対してPSA検診を推奨
- PSA検査による前立腺癌検診は、健康増進法に基づくがん検診の対象外
- 全国の自治体の64%(1163市町村)で実施されている(2009年1月時点、厚生労働省調べ)
- PSA検査を健診項目としている施設が26.8%、オプションとしている施設が76.5%に上る(日本総合健診医学会の会員を対象とした調査(2012年度))
国はPSAの有用性に疑問符を投げかけているが、日本医師会は有用だというスタンスのようです
群馬大泌尿器科学准教授の伊藤一人先生
「日本のガイドラインを変更するつもりはない」
- 今回のAUAガイドラインを受けて、日本のガイドラインを変更するつもりはない
- 50〜64歳の男性を対象に実施されたスウェーデンの試験(Lancet Oncol. 2010; 11: 725-32.)で、2年に1度のPSA検診により前立腺癌死亡率がほぼ半減した
- AUAガイドラインでは、1つのエビデンスを基に年齢の下限を決めることはしなかった
前立腺がんの早期発見のためにコストの高い診断法を受けなければならない
国も医師会も納得できる早期発見のための診断技術が必要ですね